コラム:作業療法の根拠となる研究を読む 《第5回:2014年10月6日掲載》
Weaver IC, et al. Epigenetic programming by maternal behavior. Nat Neurosci. 2004, 7(8):847-54.
「子供は良い環境で育った方がよいか?それとも悪い環境で育った方がよいか?」と質問されれば多くの方が「良い環境で育った方がいい」と返答すると思います。
それは環境からの刺激が子供の発達に影響することを経験上、または感覚的に知っているからです。研究の世界では、この感覚的、経験的な事象を科学的に調べた報告が存在します。
そこで、今回はストレス耐性の形成における生育環境の重要性を調べた研究をご紹介します
まず、我々は環境からストレスを受けると「立ち向かう or 逃げる」(交感神経優位の防御反応)か「じっとする」(副交感神経優位の行動制御)の解決策を選択しストレスに対処すると言われています。この時、生体内では視床下部-下垂体-副腎系が働くと考えられています。
具体的には、生体にストレスがかかると視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンを分泌させます。
次に副腎皮質刺激ホルモンは副腎皮質を刺激し、コルチゾールを分泌させます。これら一連の反応はストレスに対抗するために必要な反応と考えられていますが、長期的なコルチゾールの生体暴露は、海馬での神経新生の抑制や神経細胞の萎縮を引き起こすことがわかっています。そのため我々の体にはこの過剰な視床下部-下垂体-副腎系の働きを抑制する機能が備わっています。
今回ご紹介する論文は、幼少期に母親からあまり養育を受けなかったラットでは、視床下部-下垂体-副腎系が過剰に働いており、ストレス反応が亢進していることを報告しています。またこの視床下部-下垂体-副腎系の抑制障害は発達後も持続していたそうです。
この結果は、生活する環境からの刺激がストレス耐性に長期的に影響することを科学的に示した研究成果です。環境からの刺激を治療として利用する我々作業療法士は、このような知見を収集し根拠のある介入方法を開発していく必要があります。
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