【コラム】 An Enriched Environment Improves Sensorimotor Function Post-Ischemic Stroke

コラム:作業療法の根拠となる研究を読む 《第2回:2014年6月28日掲載》

Janssen H, et al. An enriched environment improves sensorimotor function post-ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2010, 24(9):802-13. doi:10.1177/1545968310372092.

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コラム執筆者:石井大典氏・近景 今回は、オーストラリアにあるHunter New England Health所属のHeidi Janssenさんの論文をご紹介したいと思います。この論文は、「豊かな環境(Enriched environment)」で過ごすことが脳卒中後の機能回復を促進すると示したものです。

 「豊かな環境」による脳機能への影響は古くから調べられており、1947年、Donald Hebbさんという方が豊かな環境で育ったネズミは普通の環境で育ったネズミに比べて学習能力や問題解決能力が優れていたと報告しています。この論文をきっかけに「豊かな環境」の持つ様々な効果について多くの結果が報告されています。その中には、脳卒中後の機能回復に対する「豊かな環境」の効果も多数報告されています。

 そこで、Janssenさんの研究チームは、メタアナリシスという解析手法を用いて今までに報告されている論文(動物実験)から「豊かな環境」で過ごすことの機能回復への効果を検証しています。メタアナリシスとは、これまでに報告されている複数の論文から効果があるという結果と効果がないという結果を抽出・統合し分析することで、より高い知見を示すものです。

 その結果、脳損傷後「豊かな環境」で過ごした動物は、普通の環境で過ごした脳損傷動物より運動機能の回復が促進され、学習能力においてもその効果は認められたそうです。また、両群の死亡率には差はなかったそうです。その一方で、「豊かな環境」で過ごした動物の梗塞巣は拡大しているという結果も得られています。

 これらの結果は、「豊かな環境」で過ごすことが脳損傷後の運動機能の回復や学習機能の向上に効果的であることをより高い知見として示しています。また、「豊かな環境」の持つ治療効果は、通常のリハビリテーションで行われる受動的なトレーニング(療法士の指導により実施する)とは違い、対象者の自発的なトレーニングを誘導し利用することで得られるものだと筆者らは記載しています。

 我々作業療法士は、環境操作を治療として用います。私はこれまでに、脳梗塞の後遺症により運動障害を呈した患者さんが自宅に外泊することで機能障害が改善したという方を経験しています。この方は外泊中、家事や滞っていた仕事を行っていたそうです。世界には環境操作による脳への影響を調べた論文が多数存在します。作業療法士の皆様には、ぜひこのような知見を活用し日々の臨床業務へ反映していただきたいと考えております。

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