【コラム】 運動による抗うつ効果のメカニズム

コラム:作業療法の根拠となる研究を読む 《第6回:2014年11月30日掲載》

Agudelo LZ, et al. Skeletal Muscle PGC-1α1 Modulates Kynurenine Metabolism and Mediates Resilience to Stress-Induced Depression. Cell. 2014, 159(1):33-45. doi: 10.1016/j.cell.2014.07.051.

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コラム執筆者:石井大典氏・近景 現代社会に生きる我々は、日々様々な刺激に暴露されています。例えば、職場では他部署の職員と意見が合わず悩み、家に帰れば「家の仕事も少しはやりなさいよ!」と家族に叱られる(※私の事ではありません)。
 このような状況が続きうまく適応できないと次第に気分が落ち込み、疲弊してしまいます。さらにこの状態がある程度以上持続し、症状が重症である時うつ病と診断されます。

 日本におけるうつ病の生涯有病率は3~7%と言われ、標準的な治療として、抗うつ薬による薬物療法が用いられます。これまでに薬物療法以外の効果的な治療として、うつ病の方への運動療法が、その症状を改善すると注目を集めています。しかしながら、なぜ運動療法がうつ病の症状を改善するのかよくわかっていません。
 そこで、今回ご紹介する論文では、運動することによる抗うつ効果のメカニズムを実験動物を用いて検証しています。

 うつ病などの精神病患者では、アミノ酸の一種であるキヌレニンの血中濃度が高いことがわかっています。これは、ストレスに暴露されることにより肝臓で生成され血液に乗って脳へ到達します。著者たちは、運動することで骨格筋内のキヌレニン代謝酵素(キヌレニンを違う物質へ変える酵素)が増加し、血液中のキヌレニンが代謝されることを発見しています。そして、この運動によるキヌレニンの代謝は、キヌレニンが脳へ到達するのを妨げ、うつの症状を改善すると結論づけられています。

 私は日々の臨床業務の中で「運動は良い気晴らしになりますよ」と声掛けすることがあります。その声掛けの根拠として、こういった研究結果があることを我々は知っておく必要があるのではないでしょうか。環境からの刺激を治療として利用する我々作業療法士は、このような知見を収集し根拠のある介入方法を提供していくべきだと考えています。

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