【コラム】 精神科作業療法の未来 第2回

コラム:精神科作業療法の未来 《第2回:2014年11月30日掲載》

コラム執筆者:水野健氏・近景 前回,作業療法士協会の事例登録集を年毎に分析しているということを書きました.今回は,分析の結果を踏まえて気が付いてことについて書いてみたいと思います.

 事例登録制度は,2005年から1.事例報告の作成により作業療法士の作業療法実践の質的向上を図る 2.事例報告の分析により作業療法成果の根拠資料を作成する 3.事例の提示によって作業療法実践の成果を内外に示していく という3点を主な目的として開始されたものです.新規性や稀有な報告の多い,学会発表や投稿論文とは違い,より実践を反映しているものなのではないかと思って注目しました.

 作業療法の成果の根拠を明らかにし,内外に示していくと言う目的に反して,精神科作業療法の報告では精神科は評価が少ないということに気がつきました.正確にいうと評価はしているのでしょうが,より客観的に,かつ伝える術として標準かされた評価法を用いた報告が他領域と比較し少ないということです.なんと約40%は全く使われていない報告でした.果たして,これできちんと成果は伝えられるのかと不安になります.

 2013年までの報告の中で一番使用されていた評価法は機能の全体評定尺度(The Global Assessment of Functioning – GAF Scale)でした.現在,GAFは2010年から精神科療養病棟での入院患者の重症度に応じた加算(重症者加算)の判定に用いられており,基本的には主治医が評価します.

 ここで私が注目したのは,GAFを用いた報告が増え始めた時期と重症度加算が導入された時期とほぼ一致しているということです.もちろんGAFは,対象者の精神症状だけでなく,心理的,職業的機能に対する全般的な生活機能を評価するものですので,全般的に生活機能をとらえる,作業療法にも適当な評価なのですが,時期を考えると作業療法の事例報告で変化を報告するに当たり,作業療法士が医師のした評価で作業療法を語ろうとしているように思えてなりません.「あんまり,ちゃんと評価しなかったけど,何だかよくなったから医者のつけたGAFを拝借して報告しちゃおう」といったことが起こってはいなかったとは言い切れないと思います.

 「日々の臨床で,作業療法の成果が明らかとなるような評価していますか?」

 精神科治療の成果は,はかりにくいと言われていますし,標準化された評価を使うだけが正しく,良いとは思いません.また難しい現状,例えば個別での対応が難しい集団でプログラムを行う治療形態なども理解できます.しかし,評価が十分になされず,成果が示しにくい現状では精神科作業療法の価値が見いだされず,精神科医療にとって不要な存在となってしまうのではないかと危機感をもっています

 もっと精神科作業療法士達は自分たちの介入に自信を持っての成果を示して作業療法の視点を,他職種にアピールしていきましょう.そして「他職種から作業療法を分かってもらえない」「レクリエーション屋さんじゃないんだけどな」という精神科作業療法士からよく聞かれる愚痴から抜け出しましょう!

 


 
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