コラム:作業療法の根拠となる研究を読む 《第3回:2014年7月28日掲載》
Langhorne P, Coupar F, Pollock A. Motor recovery after stroke: a systematic review. Lancet Neurology. 2009, 8(8):741-54. doi: 10.1016/S1474-4422(09)70150-4.
脳卒中後の運動機能の回復は、複雑で困難な場合が多いことは日々の臨床経験からご承知のことと思います。それ故、世の中には多くの介入方法が開発され臨床応用されています。
そのような状況の中、数ある介入方法の中で何が効果的で、何を治療として用いたらよいのかわからないと感じる方も多いのではないでしょうか。その原因の1つとして、開発された介入方法の効果を科学的な手続きを用いて比較、検証した研究がないことが考えられます。
そこで、今回はイギリスにあるGlasgow大学所属のPeter Langhorneさんの論文をご紹介したいと思います。
この論文は、「Motor recovery after stroke: a systematic review」というタイトルからもわかる通り、「脳卒中後の運動機能の回復」についていくつかある介入方法の効果を比較し、まとめたものです。脳卒中のリハビリテーション領域ではとても有名なものですので一度目を通されることをお勧めします。
Langhorneさんの研究チームは、今までに報告されているランダム化比較試験の研究成果から介入方法の違いによる機能回復(上肢、手指、バランス、歩行)への効果を比較しています。
その結果、上肢の機能回復においてCI療法が最も効果的であることが示されています。その他、筋電測定を用いたフィードバックトレーニング、運動イメージ、ロボティクスを用いたトレーニングが一定の治療効果を持つことが示されています。しかしながらこれら3つの介入方法は、その効果を調べた研究の精度に問題があると指摘されており注意深く今後の研究成果を追う必要があります。
次に手指の機能回復に関しては、今のところ効果のあるものが特定されなかったそうです。バランス機能の回復に効果的な介入方法としては、床反力計を用いたフィードバック、可動式プラットホームを用いたトレーニングが挙げられています。しかしながらこれらのデータにおいても研究の精度に問題があることが指摘されています。
最後に歩行スピードに関して、心肺機能向上を目的としたトレーニング、高強度トレーニング、反復課題指向型訓練の3つ介入方法に治療効果が認められています。
これらの結果は、上述した「どんな介入方法が効果的で、何を治療として用いたらよいのかわからないという問題点」を完全に解決するものではありませんが、解決の一助になるものと思います。さらに、現状では手指の機能障害に対する効果的な治療法がないという新たな問題点も見出しています。
我々作業療法士は、対象者へ効果的な治療を提供する義務があります。そのためにもこのような情報を収集する必要があると考えられます。作業療法士の皆様には、ぜひこのような知見に注意を向けていただきたいと思います。
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