【コラム】 精神科作業療法の未来 第3回

コラム:精神科作業療法の未来 《第3回:2015年4月9日掲載》

コラム執筆者:水野健氏・近景 今年も楽しみにしていた年賀状がきました.以前,病院で勤務していた時に担当していた方からのものです.その方は,長期入院していましたが,小さな目標を少しずつクリアし,退院され,現在は地域で生活を送られています.この方には,作業療法士として必要なことや,やってはいけないことも含め,本当に色々と教えて頂いた思い出深い方です.

 皆さんには,自分の作業療法士として新たな視点を与えてくれたクライアントや転機となったクライアントはいますか?この方に限らず私は,臨床の中で多くのクライアントの方に本当に色々なことを教えて頂いたと感じています.

 作業療法士1年目に担当した方は,とにかくプログラムに取り組んでもらわなければならないと思い込んでいた私に,場のセッティングや当事者同士のつながりやが大切であることを教えてくれました.そこから,プログラム中心ではなくクライアント中心であると改めて考えることが出来るようになりました.
 また,「作業療法は意味がないと思う」と正面切って意見してくれた方もいました.その時の私は,この方を納得させられるだけの十分な説明をすることが出来ませんでした.これをきっかけに,精神科作業療法の効果の示し方の難しさと必要性を痛感し,評価や研究法について勉強を始めることとなりました.
 まだまだ他にも心に残るクライアントは,たくさんいます.皆さん私の作業療法のお師匠さん達です.
 皆さんも日々の臨床の中で,色々なことを気づかされたり,教えてもらっているはずです.でも,それは一度立ち止まってみて,確認をしないと流されてしまうことも多いのではないでしょうか.私は,この方たちとの関わりを,事例報告,事例研究としてまとめさせて頂き,学会等で発表をしました.そのことで,さらに,新たな気づきを得ることが出来ました.
 是非,振り返るという作業を行って下さい.(事例報告や研究としてまとめると他の人の見てもらう機会も増えますのでより良いと思います).作業療法の結果良くなった時だけでなく,逆に上手くいかなかったことも振り返ってみることも必要だと思います.大事なことは1例1例の積み重ねです.

 現在の作業療法は,今までの先人たちの1例1例の積み重ねによって成り立っています.1例1例を大切に振り返り,積み重ね続けていくことが,未来へつなげていくための大切な作業なのではないでしょうか.

 


 
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