【コラム】 脳卒中患者に対する早期リハビリテーションの効果

コラム:作業療法の根拠となる研究を読む 《第9回:2015年5月23日掲載》

AVERT Trial Collaboration group. Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): a randomised controlled trial.
Lancet. 2015 Apr 16. pii: S0140-6736(15)60690-0. doi: 10.1016/S0140-6736(15)60690-0. PubMed PMID: 25892679.

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コラム執筆者:石井大典氏・近景 現在、脳卒中患者に対するリハビリテーションはより早期に開始するよう多くのガイドラインが推奨しています。その理由として、安静臥床は骨格筋、循環器、呼吸器、免疫システムの機能低下を引き起こすこと、そして一度低下した機能の回復には時間がかかること、無動による合併症の多くが脳卒中発症後早期に起こること、脳の可塑性や修復は脳卒中発症直後に起こり、その期間は短いことが挙げられています。

 一方で、リハビリテーションを早期に開始することに対する批判的意見も存在します。脳梗塞より脳血流が低下した部位の中で細胞が生存している領域をペナンブラと呼びますが、早期にリハビリテーションを開始した際にこのペナンブラがダメージを受けてしまうと指摘されています。さらに、リハビリテーションの実施による血圧の上昇が予後を悪化させるとも言われています。

 こういった場合、正直なところ「良いの?悪いの?どっちなの?」と言いたくなりますが、世の中にはこの問題を解決しようと大規模な研究を進めているグループが存在します。プロジェクト名は、A Very Early Rehabilitation Trial(AVERT)と言い世界中の研究者が協力し合い研究を進めています。

 そこで、今回はThe Lancetという雑誌に掲載されたAVERTグループによる研究成果をご紹介します。
 
 方法は、初発または再発の脳卒中患者(18歳以上)、2104人を一般的な脳卒中ユニットケアのみの群(1050人)と早期リハビリテーション介入+一般的な脳卒中ユニットケアを行う群(1054人)に分け検証されています。早期リハビリテーション介入の効果は、介入3ヶ月後にmodified Rankin Scale scoreという評価スケールを用いて評価されています。

 その結果、介入3ヶ月後にmodified Rankin Scale scoreの「まったく症候がない~軽度の障害」の範囲に入るヒトの割合は早期介入群で46%、通常介入群では50%だったそうです。また、両群で死亡率に有意差はなかったそうです。

 この結果は、これまで推奨されてきた「早期介入が良い」という考え方に疑問を投げかけるものになりました。こういった研究・調査が世界中で行われ、より効果的な治療法の開発が進むことを期待したいと思います。

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