【コラム】 精神科作業療法の未来 第5回

コラム:精神科作業療法の未来 《第5回:2015年8月28日掲載》

コラム執筆者:水野健氏・近景 先日,日本作業療法士協会主催の研修会へ参加してきました.ですが,今回はその話ではなく,研修会後に開かれる懇親会の話です.
 私は,研修会や勉強会の後の懇親会がある場合には,よほどの理由がない限り参加することにしています.その理由は,多くの作業療法士達と出会い,つながりを得ることは重要であり,懇親会はそれが自然に得られる一つの機会だと考えているからです.

 私が仕事を始めた頃は,一人職場というところも珍しくはなく,近くに相談することが出来る相手も少なく,行き詰っていました.そのため,外へ仲間を求め様々な研修会や勉強会に参加し,懇親会へも出席しました.
 そこで,多くの学びや気づき,発見をすることが出来ました.具体的には,勉強会・研修会の中では,言えない本音を聞くことができたり,同じ悩みをもつ人に出会ったり,またそれを解決,乗り越えた経験をもつ人にであったりしました.また,逆に自分がしてきた経験を話すことで他者の役に立つ,自分の考えが受け入れられるとい経験にもなります.自己肯定感があがりました.さらに職場の愚痴を言えたりすることもあり,非常に健康的になった記憶があります.このような経験が,今の私の考えを支えています.
 今は一人職場という所は少なくなり,職場の仲間ともこうしたことは出来るかもしれませんが,やはり範囲は限定されるうえ,毎日顔を合わせて働くため言いたくても言えないことも出てくると思います.

 アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェッターが提唱した「弱い紐帯の強み」”The strength of weak ties”という説があります.これは,「よく知っている」人同志は同一の情報を共有することが多く、そこから新しい情報が得られる可能性は少ないが、「あまり知らない」人は自分の知らない新情報をもたらしてくれる可能性が高いかというものです。つまり,このような「あまり知らない」間柄を「弱い紐帯」と呼び,弱い紐帯によって伝達される情報や知識は、受け手にとって価値が高いことが多い.その一方で強いネットワークの内部では接触こそ頻繁だが、たわいない話題などを交換しているだけのことが多いため、弱い紐帯では関係性が弱いにもかかわらず連絡を取るほど、伝達内容は重要なのだというものです.

 また,MITメディアラボの所長である伊藤穣氏は「現代の世界では,つながることが,物事を推し進めてくれる」とも言っています.

 普段のネットワークから少し離れて,いつもとは違った他者とつながることは非常に価値があり,そこから無限の可能性を秘めているのです
 もちろん,作業療法士同士のつながりを得る手段は,飲み会だけではありません.一人一人にあった様々な手段があると思います. 職場仲間だけでなく,また領域にとらわれず,外へ出て多くの新しい出会いを探していきましょう.
 その出会いが新たな発見や価値を見出し,未来を創るヒントをくれるはずです.そして,あなた自身が未来を創るヒントとなる可能性もあるのですから.

 


 
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